オーストリア在住の写真家、古屋誠一(60)の写真展「メモワール.愛の復讐(ふくしゅう)、共に離れて…」が東京・恵比寿の東京都写真美術館で開かれている。1985年に自死した妻、クリスティーネを追悼する個展「メモワール」を開き、その後も写真集や展覧会を重ねて、彼女と無言の対話を続けてきた古屋。その真摯(しんし)で切実な制作活動の軌跡をたどる展示は、見るものの心を激しく揺さぶる。(篠原知存)
会場を入ってすぐ、1枚目に飾られているのは、クリスティーネの遺影。鑑賞者はいきなり、避けられない死を通告され、「どうしようもなさ」を背負うことになる。
古屋は1970年代からヨーロッパを拠点に活動してきた。東ベルリンで妻が自ら命を絶ってから4年後に、生前の彼女との生活を主題にした「メモワール」の制作を始めた。
なぜ妻は病んでしまったのか。2人で過ごした時間は何だったのか…。問いは繰り返され、写真は何度も編み直されてきた。完結することのないその取り組みは、内外で高く評価されている。しかし今年1月、写真家はインタビューにこう答えた。「所詮(しよせん)何も見つかりはしないのだという答えが見つかったのではないかと(思える)」
本展のタイトルには、そっと「ピリオド」が打たれている。これが最後になるかもしれない、という意思表明だ。
約130点の作品による展示は、7つのゾーンに分けられていて、長男の名前である「光明(こうみょう)」と題された区画から始まる。一人息子の写真が時系列に並ぶ。妻に抱きかかえられた乳児が、次第に成長してゆく。妻が不在になったあとも…。
展示を担当した同美術館専門調査員の石田留美子さんは「これまで『メモワール』は、夫婦の物語として理解されてきたように思える。でも長男が成長してゆく姿も印象的。展示は家族の歴史をあらわすものにしたかった」と語る。
このコーナーに限らず、どの写真を見ても、撮影年が気になる。悲劇の前か、後か。それは仕方がないのだが、「エピファニー(神聖なものの顕現)」と分類されたスナップ写真のシリーズは、少し心を軽くしてくれる。
画面を静かな気配が占めているのは変わらないが、絶望的ではない。写真家がただ回想の中に立ち尽くしているのではなく、離別を受け止め、進み続けてきたことが実感できるはずだ。「展示が、見る人の背中をそっと押すようなものであればうれしい」と石田さんはいう。
7月19日まで、一般800円、月休(祝日は開館)。問い合わせはTEL03・3280・0099。
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